Road Trip with tokyo grapher
早春の富士五湖を巡る旅 Vol.3
前々から入ってみたかった森がある。青木ヶ原の樹海。
溶岩流による荒々しい地肌を緑の苔が被い、その上に鬱蒼とした森が広がる。富士山の北西側にあり、ほぼ山手線に囲まれた面積ほどもある。
富士五湖の前身であった「せの海」という広大な湖が、今から1,100年前の864年に起こった富士山の「貞観大爆発」によって溶岩で埋め尽され、そこに生え育った苔が朽ちては生えを繰り返して出来た2cmほどの土壌に、樹木が育ったのだという。土壌が薄いことから、木々の根は地表を這うように広がり、独特の景観を成している。
神秘の樹海は、どこか深海に似ている
つい最近公開された、マシュー・マコノヒーと渡辺謙が主演の米映画『The Sea of Trees』(邦題:追憶の森)は、自殺をするためにやってきた2人が樹海で出会い、出口を求めて彷徨いながら自分を見つめ直すというストーリーだが、青木ヶ原の樹海を自殺の名所にしたのは、松本清張の小説『波の塔』だと言われているそうだ。
そういった先入観もあってか、確かにこの深い森に入って行くと、2度と出られないのではないかという不安な気持ちで心がざわめいてくる。だが実際に足を踏み込んで歩いてみると、延々と続く苔むした溶岩流と、そこに根を張る樹々が成す森の神秘的な風景に、どこか深い海の底を歩いているような不思議な気分が湧いてきた。
前日に少し遅い雪が降り、この日は苔の緑を縁取るようにうっすらと残雪が残っていた。
付近には何種類もの苔が生えているようだったが、中でも特に緑が鮮やかな「ヒノキゴケ」が、融けていく残雪の雫を貯えてきらきらと美しかった。この雫の一粒一粒が、土壌に浸透してやがてはあの美味しい富士の天然水になるのかなぁ?…と、さっき天然水を湧かして飲んだ珈琲を思い出す。
ヒノキゴケは、撫でてみるとふわふわと優しくて、手の平が気持ちよかった。
木漏れ日の優しさと強さ
森の表情は光によって様変わりする。
実を言うと、私は雨の日の森が好きだ。太陽の強い光が影を強調する晴れの日よりも、緑がしっとりとして美しいトーンで撮ることができる。
ここで紹介している前半の写真は日射しのない曇天に撮ったもので、樹々や苔の緑がしっとりと写る。一方、後半は晴天となり、強い木漏れ日が樹々に地表にと、至る所に光を落としている。
それは、まるで照明を当てた舞台のセットのようにも見える。友人をスポットライトを受ける演者に見立てて、あれこれとポーズをとってもらった。
To be continued
Text by Koichi Miyase
Photography by Koichi Miyase and Akihito Nagata
Photographic equipment / iPhone 6S + tokyo grapher, Canon EOS 5D Mark2